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自毛植毛後の洗髪はいつから?結論
自毛植毛後の洗髪は、移植毛を守りながら血液・滲出液・かさぶたを適切に落とし、頭皮を清潔に保つための重要な術後ケアです。もっとも大切なのは、全国共通の「絶対にこの日から」というルールがあるわけではなく、術式、移植密度、創部の状態、クリニックの固定法や術後指示によって開始時期や洗い方が異なることです。手術を受けた施設から個別の指示がある場合は、その指示を優先してください。
研究上は、移植グラフトは術直後から数日間は物理的な力で脱落し得ます。2006年に報告された42人の研究では、術後最初の2日間は毛を引くとグラフトが脱落し、付着したかさぶたを引っ張った場合は術後5日目までグラフト脱落が起こりました。術後9日になると、同研究ではグラフトは手で引いても脱落しなくなりました。この結果は「9日までは一切洗ってはいけない」という意味ではありません。むしろ、強い摩擦やかさぶたを無理にはがす動作を避けつつ、施設の指示に沿って優しく洗う必要があることを示しています。
近年の術後ケア研究でも、早期から適切な洗浄を行い、かさぶたを長期間残しすぎない考え方が重視されています。2026年の21人を対象にした多施設単群パイロット研究では、FUE後48〜72時間から構造化された洗髪プロトコルを開始し、10日間かけてかさぶたを減らす方法が検討されました。重篤な有害事象は報告されませんでしたが、小規模・対照群なしの研究なので、すべての患者に同じ洗浄剤を推奨できる根拠ではありません。
自毛植毛後に洗髪が重要な理由
自毛植毛後の頭皮には、移植部と採取部の両方に小さな創があります。FUEではドナー部に多数の小さな採取孔が生じ、FUTでは線状の切開創ができます。移植部には毛包単位を挿入するための微小な創が多数あります。術後早期には血液、血漿成分、滲出液が乾燥し、移植毛の周囲にかさぶたが形成されます。
かさぶた自体が直ちに異常というわけではありませんが、厚いかさぶたを長く残すことにも利点ばかりではありません。頭皮の清潔を保ちにくくなり、患者自身が気になって触ったり引っかいたりする原因にもなります。また、古い文献ではかさぶたが残っていると、そのかさぶたを引っ張った際にグラフトまで一緒に脱落しやすい期間が長くなる可能性が示されています。
一方で、早く落としたいからといって爪で削る、タオルで強くこする、高圧のシャワーを直接当てる、といった方法は避けるべきです。術後ケアの目的は「できるだけ早く全部のかさぶたを取ること」ではなく、「グラフトを保護しながら清潔を保ち、自然に脱落しやすい状態へ導くこと」です。
いつから洗える?術後日数ごとの考え方
手術当日
手術当日は、自己判断で通常どおりのシャンプーをするのではなく、施術施設の指示に従うのが基本です。施設によっては術直後に医療者が洗浄する場合もあれば、当日は移植部を濡らさず翌日以降から洗浄を始める場合もあります。
当日に血液がにじんでいても、強く拭き取らないことが重要です。出血が続く場合は、移植部をこするのではなく、術者から指示された方法で対応し、止血しない、急速に腫れる、強い痛みが出るといった場合は施術施設へ連絡してください。
術後1〜2日
この時期は移植グラフトがまだ機械的に安定していない可能性が高い時期です。2006年のグラフト固定に関する研究では、術後2日までは毛を引くとグラフトが脱落しました。したがって、洗う場合も「こすって洗う」のではなく、泡をのせる、弱い水流で流す、カップなどで水を優しくかける、といった方法が安全側です。
ISHRSの術後指導資料でも、初期はシャワーの強い噴流を直接移植部へ当てず、カップや容器で優しく流す方法が紹介されています。ドナー部と移植部では扱いを分け、移植部はとくに摩擦を避けることが重要です。
術後3〜5日
赤みやかさぶたが目立つ時期です。かさぶたを見ると取りたくなりますが、無理にはがす時期ではありません。前述の研究では、付着したかさぶたを引くと術後5日目までグラフトが一緒に抜けることがありました。
この時期に大切なのは、かさぶたを「剥がす」のではなく「ふやかして自然に離れやすくする」考え方です。ぬるま湯と泡を使い、爪を立てず、指腹で強く押さえないようにします。施設によってはローションやフォーム、特定のシャンプーを指定することがありますが、自己判断でサリチル酸やピーリング成分の強い製品を追加するのは避けてください。
術後6〜10日
グラフトの固定は徐々に進みます。2006年の研究では6日目以降、毛を引くだけではグラフトが脱落しにくくなり、9日目には手で引いても脱落しなくなりました。ただし、これは意図的に強くこすってよいという意味ではありません。
総説では、術後7〜10日ごろから通常のシャンプーに近づけ、かさぶたを徐々に落とす方法が紹介されています。ぬるま湯で十分にふやかし、泡を使い、指腹でごく軽く円を描くように洗うなど、クリニックの指示に従って摩擦を段階的に増やします。
術後10日〜2週間
多くのケースでは、この時期になるとかさぶたがかなり減り、洗髪方法も日常に近づきます。ただし、赤み、痛み、膿、出血が続いている場合は、単純に「日数が経ったから通常洗髪」とは考えません。炎症が強い場合には医療者による確認が必要です。
また、移植毛の毛幹が洗髪時に抜けることがあります。毛包そのものが生着していれば、術後数週で一時的に毛幹が抜けることは珍しくありません。毛が抜けたように見えることと、グラフト全体が脱落したことは同じではありません。
正しい洗い方の基本手順
1. まず手を清潔にする
洗髪前に手指を洗い、爪が長い場合は移植部に当たらないよう注意します。術後頭皮は小さな創が多数あるため、普段以上に清潔操作を意識します。
2. お湯はぬるめにする
熱すぎるお湯は刺激が強く、赤みや不快感を増やすことがあります。熱湯に近い温度は避け、普段よりやや低めのぬるま湯を使うのが無難です。
3. 強いシャワーを直接当てない
術後早期は高圧のシャワーを移植部へ直撃させないようにします。カップや手で水流を弱める方法を使うと、物理的な力を減らせます。
4. シャンプーは手で泡立てる
原液を移植部へ直接こすり込むのではなく、手のひらで十分に泡立ててから泡をのせます。施設指定の洗浄剤がある場合はそれを使用します。
5. 初期は「なでる」より「のせて流す」
術後数日は、泡を置いてしばらく待ち、弱い水流で流す程度にします。爪を立てる、かさぶたをつまむ、毛を引っ張る動作は避けます。
6. 日数に応じて摩擦を段階的に増やす
術後1週間前後から、術者の許可があれば指腹を使った軽い洗浄へ移行します。一気に通常の強さへ戻すのではなく、頭皮の状態を見ながら段階的に戻します。
7. 乾かすときもこすらない
タオルでゴシゴシ拭くのではなく、移植部は自然乾燥、または清潔なタオルで周囲を軽く押さえる程度にします。ドライヤーを使用する場合は高温の熱風を近距離から当てず、施設の指示に従います。
かさぶたはいつ取れる?
かさぶたの目立ち方には個人差があります。移植密度、出血量、頭皮の皮脂、術後の洗浄方法などで変わります。一般的には術後1週間前後から減り始め、1〜2週間程度でかなり目立たなくなることが多いですが、個別の指示が優先されます。
2026年のパイロット研究では、術後48〜72時間から10日間の洗浄プロトコルを行い、かさぶたスコアが低下しました。ただし、この研究は21人の単群研究であり、2%サリチル酸を含む特定製品がすべての患者に最適と証明した研究ではありません。製品メーカーとの利益相反も報告されているため、「この成分を使えば定着率が上がる」といった結論にはできません。
かさぶたを無理に取るとどうなる?
術後早期に付着したかさぶたを無理に剥がすと、出血や創傷、グラフト脱落につながる可能性があります。特に術後5日程度までは、かさぶたにグラフトが付着したまま抜ける可能性が示されています。
出血を伴って毛根様の組織が一緒に取れた場合は、単なる毛幹の脱落ではなくグラフト脱落の可能性があります。ただし、患者自身が見た目だけで確実に判断することは困難です。気になる組織が取れた場合は写真を撮り、施術施設へ相談するのが現実的です。
洗髪中に毛が抜けたら失敗?
必ずしも失敗ではありません。移植した毛は、一度毛幹が抜けて休止期に入り、その後に再び成長することがあります。洗髪時に短い毛が数本取れただけで、毛包が失われたとは限りません。
一方、術後早期に出血とともに皮膚片のような組織が抜けた場合や、明らかな外傷を加えた直後に抜けた場合は確認が必要です。自己判断で追加処置をせず、施術施設へ連絡してください。
FUEとFUTで洗髪方法は違う?
移植部の扱いは共通点が多い一方、ドナー部のケアは異なります。
FUEでは後頭部などに多数の小さな採取孔ができます。多くは縫合しませんが、初期は滲出や小さなかさぶたがみられます。ドナー部も清潔を保ちつつ、強い摩擦を避けます。
FUTでは後頭部を帯状に切除して縫合するため、線状創の管理が必要です。洗髪時に縫合部へ爪を立てないこと、術者の指示に従って創を清潔に保つことが重要です。抜糸時期も確認してください。
移植部については、FUEかFUTかよりも、移植密度、創部の状態、使用した固定法、術者の術後プロトコルによる影響が大きいため、「FUEなら翌日から普通に洗える」「FUTなら長期間洗えない」と単純化するのは適切ではありません。
シャンプーは何を使う?
基本は、施術施設が指定した製品があればそれを使います。指定がない場合は、刺激が少ない洗浄剤が選ばれることが多いです。過度な清涼成分、強いスクラブ、ピーリング成分、強い香料などは術後早期には避けた方が無難です。
総説ではマイルドなシャンプーが術後7〜10日ごろの洗浄に使われる例が紹介されています。しかし、「ベビーシャンプーなら医学的に定着率が上がる」という意味ではありません。洗浄剤の銘柄より、過度な摩擦を避けることと、術後指示に従うことが重要です。
サリチル酸シャンプーは使っていい?
自己判断では勧めません。2026年の小規模研究では2%サリチル酸などを含む製品を術後48〜72時間から使用し、かさぶた減少と良好な忍容性が報告されました。ただし21人、対照群なしのパイロット研究です。さらに研究者の一部と製品企業との利益相反が記載されています。
サリチル酸は角質を軟化させる成分で、術後創への使用は通常のフケ対策とは状況が異なります。使用したい場合は、手術を行った医師に確認してください。
育毛シャンプーやスカルプシャンプーは?
術後早期に積極的に使う必要はありません。育毛シャンプーという名称でも、移植毛の生着を直接高めることが証明されているとは限りません。メントール、エタノール、強い洗浄成分などが刺激になる製品もあります。
術後は「何か特別なものを足す」よりも、創部を安定させ、指示どおりに洗浄し、必要なAGA治療を医師と相談して継続する方が重要です。
洗髪しない方が定着率は上がる?
洗わないほど良いわけではありません。術後早期に強い摩擦を避けることは重要ですが、長期間まったく洗わないことが最善という根拠はありません。
1090人を対象とした多施設後ろ向き研究では、移植部周囲の紅斑と術後初回洗髪のタイミングとの関連が報告されています。ただし観察研究であり、最適な洗髪開始日を無作為化比較した研究ではありません。洗髪時期が遅い患者には別の背景要因があった可能性もあるため、「何日目に洗えば定着率が何%上がる」とは言えません。
赤みはどこまで正常?
移植部の赤みは術後によくみられます。赤みだけで感染とは限りません。頭皮の肌色、移植密度、刺激への反応などによって持続期間は変わります。
一方で、赤みが日ごとに拡大する、強い熱感や痛みを伴う、膿が出る、悪臭がする、発熱する、といった場合には感染などの評価が必要です。ISHRSの患者向け情報でも、術後に赤みやかさぶたがみられることはある一方、黄色い膿や排液は正常な術後所見として扱うべきではないとされています。
毛嚢炎があるときは洗っていい?
軽い毛嚢炎様のぶつぶつは術後に生じることがありますが、重症度によって対応が異なります。自己判断で潰したり、消毒薬や抗菌薬を追加したりせず、まず施術施設へ相談してください。
赤みが広がる、膿が多い、強い痛みがある、発熱する場合は、単なる毛嚢炎ではなく感染の可能性を含めて早めの診察が必要です。
頭をぶつけた・引っかいた場合
術後早期に頭をぶつけたり、睡眠中に強く引っかいたりした場合でも、必ずすべてのグラフトが失われるわけではありません。出血の有無、どの程度の外力だったか、術後何日目かによってリスクは変わります。
出血が持続する、移植部に大きな欠損がある、毛根様の組織が複数取れた場合は、写真を撮って施術施設へ連絡してください。数日たってから自己判断で植え直すことはできません。
帽子はいつから?
帽子の可否は帽子の形と移植部への接触によります。術後早期に移植部を圧迫したり擦ったりする帽子は避けるべきです。ゆったりした帽子を術者が許可する場合もありますが、深く被ったときに移植部へ触れるデザインは不向きです。
紫外線を避ける目的はありますが、帽子による物理的摩擦を増やしては本末転倒です。外出時の具体的方法は施設へ確認してください。
整髪料・ワックス・ヘアスプレーはいつから?
術後初期は避けるのが一般的です。ISHRSの術後指導例でも、少なくとも術後数日は整髪料を避ける内容が示されています。創部が閉じ、かさぶたが取れ、洗髪が通常に近づいてから再開を検討します。
再開後も、移植部を強くこすって整髪料を落とす必要がある製品は控えめにした方が安全です。
ドライヤーは使える?
術後早期は高温の熱風を至近距離から当てないようにします。移植部は自然乾燥、または低温・弱風で距離を取る方法が無難です。タオルで強くこする方が物理的刺激が大きいため、乾燥方法も「摩擦を減らす」ことを優先します。
入浴・サウナ・温泉は?
洗髪できることと、長時間の入浴、温泉、サウナ、プールに入れることは別です。術後早期は出血・腫れ・感染リスクなどを考え、激しい発汗や不特定多数が利用する水環境を避けるよう指示されることがあります。
再開時期は施設によって異なるため、手術後の説明書を確認してください。特にFUTで縫合創がある場合や、創部に炎症がある場合は個別判断が必要です。
運動後の洗髪は?
術後すぐに激しい運動をすると、血流増加や発汗、接触事故などの問題があります。運動再開時期も洗髪と同様、術者の指示に従います。運動を再開した後は汗を長時間放置せず、許可された方法で清潔を保ちます。
定着率を上げるために本当に重要なこと
術後ケアだけで結果が決まるわけではありません。自毛植毛の結果は、ドナー選定、採取時の毛包損傷、体外時間、保存条件、移植部作成、深さ・角度・密度、術者とチームの技術、患者側の頭皮状態など多くの要素に左右されます。
洗髪だけに神経質になりすぎるよりも、手術施設のプロトコルを守り、移植部へ強い物理的刺激を加えず、異常所見があれば早めに連絡することが実践的です。
AGA治療薬は術後も必要?
自毛植毛は、後頭部などから採取した毛包を薄毛部へ移動する治療です。移植毛そのものはAGAの影響を受けにくい性質を保つと考えられますが、周囲に残っている既存毛のAGA進行を止める治療ではありません。
そのため、フィナステリドやデュタステリドなどの継続が適している患者もいます。ただし薬剤の開始・中止・再開時期は、手術施設と処方医の方針に従ってください。術後の洗髪時期とAGA薬の服用時期は別の論点です。
よくある質問
翌日から洗っても移植毛は抜けませんか?
翌日洗髪を指示する施設はありますが、通常の強さでこすってよいという意味ではありません。術後初期はグラフトが機械的に弱いため、泡をのせて弱い水流で流すなど、指定された方法を守ってください。
3日間まったく洗わない方が安全ですか?
一概には言えません。施設ごとに術後プロトコルが異なります。長く洗わないことが定着率を高めると確立しているわけではないため、独自判断ではなく術者の指示を優先します。
かさぶたが10日以上残っています
少量なら個人差の範囲のこともあります。無理にはがさず、洗髪方法が適切か施術施設へ確認してください。赤み、痛み、膿、悪臭を伴う場合は早めの診察が必要です。
洗髪で移植毛が10本ほど抜けました
毛幹だけが抜けたのか、グラフトごと脱落したのかで意味が異なります。術後数週の毛幹脱落はあり得ます。術後早期に出血を伴って組織が抜けた場合は写真を撮り、施術施設へ相談してください。
市販のフケ用シャンプーは使えますか?
術後早期は刺激になる可能性があります。抗真菌成分、サリチル酸、メントールなどを含む製品は、自己判断で開始せず手術施設へ確認してください。
いつから普通にゴシゴシ洗えますか?
多くのプロトコルでは術後1週間から10日前後で徐々に通常洗髪へ近づけますが、移植部の状態によって異なります。日数だけで判断せず、かさぶたや炎症の状態と施設の指示を優先してください。
洗髪開始日がクリニックによって違うのはなぜ?
患者から見ると、「あるクリニックは翌日から洗うのに、別のクリニックは数日待つ」と説明が違うと不安になるかもしれません。しかし、自毛植毛の術後ケアには複数の実務的な差があります。たとえば、移植部をどの程度密に作ったか、グラフトをどの深さで挿入したか、術後にどのような被覆や保湿を行うか、術直後に医療者が洗浄したか、ドナー採取がFUEかFUTか、といった点です。
さらに、「洗髪」という言葉が同じでも内容が違います。翌日から「泡をのせて流すだけ」を洗髪と呼ぶ施設もあれば、「指腹で軽く触れてかさぶたを落とす段階」を洗髪と説明する施設もあります。開始日だけを比較すると矛盾して見えても、実際の物理的刺激の強さを確認すると大きく違わないことがあります。
そのため、インターネット上で他院の術後説明を見つけても、自分の手術にそのまま置き換えないことが大切です。特に術後数日は、同じ「シャンプー可」でも、シャワー圧、指で触れてよい範囲、乾燥方法などを細かく確認してください。
グラフトはどのように固定されていく?
移植された毛包単位は、移植直後から周囲組織と一体化しているわけではありません。初期には創内のフィブリンや周囲組織によって保持され、その後の創傷治癒でより安定します。だからこそ、術直後は比較的小さな牽引力でも抜けやすく、日数の経過とともに同じ力では抜けにくくなります。
42人を対象としたグラフト固定の研究は古い小規模研究ですが、術後日数と機械的脱落の関係を直接評価した数少ないデータです。同研究では、毛を引っ張る操作では6日目以降にグラフトが抜けなくなった一方、かさぶたを引いた場合には5日目まで脱落が起こりました。この違いからも、患者が「毛を触らなければ大丈夫」と考えるだけでなく、かさぶたを無理に取らないことが重要と分かります。
ただし、この研究結果を「6日目から何をしても安全」「9日目から強くこすってよい」と解釈するのは不適切です。実際の頭皮では、移植密度や創傷治癒、炎症の有無が異なるため、数値は術後ケアを考える参考値と位置づけるべきです。
洗髪と「定着率」を結び付けすぎない
自毛植毛に関する広告や体験談では、「この洗い方なら定着率95%」「このシャンプーで生着率が上がる」といった表現を見かけることがあります。しかし、患者が家庭で行う洗髪方法だけを変えて長期の毛包生着率が何%改善するかを示した質の高い比較試験は乏しいのが現状です。
術後ケアは重要ですが、最終的な発毛には手術中の毛包損傷、採取・分離・保存、体外時間、移植深度、密度、血流、喫煙、基礎疾患、既存頭皮の炎症など多数の因子が関係します。術後のシャンプー1つだけで結果が決まるわけではありません。
したがって、患者が術後1回の洗髪で少し強く触れてしまったからといって、直ちに「すべて失敗した」と考える必要もありません。明らかな出血や多数のグラフト脱落がなければ、まず施術施設に状況を伝え、必要に応じて写真や診察で確認する方が合理的です。
かさぶたと移植毛を見分けるポイント
術後に落ちた小さなかさぶたの中に短い毛が含まれていると、「毛根ごと抜けた」と感じることがあります。しかし、短い毛幹がかさぶたに付着しているだけの場合もあります。
グラフト全体の脱落を患者自身が見た目だけで確実に判定することは難しいですが、術後早期に出血を伴い、皮膚片様の組織が毛と一緒に抜けた場合は疑う材料になります。一方、術後1〜数週間たって、出血なく短い毛だけが抜ける場合には、一時的な毛幹脱落の可能性があります。
重要なのは、抜けたものを何度も触って確認したり、同じ部位をさらにこすったりしないことです。異常が疑われる場合は、スマートフォンで移植部と抜けた組織の写真を撮り、手術施設へ送れるようにしておくと判断材料になります。
洗髪前に確認したいチェックポイント
毎回細かく神経質になる必要はありませんが、術後早期は洗う前に頭皮を軽く観察すると安心です。前日より出血が増えていないか、赤みが急速に広がっていないか、黄白色の膿が出ていないか、強い腫れが新たに出ていないかを確認します。
通常の術後変化として、軽度の赤み、点状のかさぶた、少量の乾いた血液、軽いかゆみなどはみられます。反対に、疼痛が日ごとに強くなる、触らなくてもズキズキする、悪臭のある排液がある、発熱を伴う、といった場合には術後ケアの範囲を超える可能性があります。
こうした異常があるときに「洗えば治る」「消毒液を増やせばよい」と自己判断しないでください。感染や血腫などでは、診察と治療が必要になることがあります。
かゆいときの対処
かさぶたが乾いてくると、術後数日からかゆみを感じる人がいます。最も避けたいのは、無意識に爪で移植部を引っかくことです。睡眠中に触ってしまう人もいるため、強いかゆみがある場合は施術施設へ相談してください。
市販のかゆみ止め、ステロイド外用、抗ヒスタミン薬などを自己判断で移植部へ使うのは勧めません。薬剤によっては創部への使用方法が異なり、原因が乾燥なのか、接触皮膚炎なのか、毛嚢炎なのかでも対応が違います。
洗髪時には、かゆい部分だけ強く洗いたくなりますが、かゆみの強さと汚れの多さは一致しません。むしろ強い摩擦で炎症を悪化させることがあります。
フケや脂っぽさが気になる場合
術後は普段と洗髪方法が変わるため、一時的に脂っぽさやフケ様の付着物が増えることがあります。これだけで感染とは限りません。初期は「しっかり落としたい」という気持ちより、移植部を傷つけないことを優先します。
脂漏性皮膚炎がもともとある人では、術後に症状が悪化することも考えられます。抗真菌シャンプーを普段使っている場合でも、再開時期は手術施設へ確認した方が安全です。術後創に対する使用と、通常の頭皮に対する使用は同じではありません。
洗髪後に赤くなった場合
洗髪直後は、温度や軽い刺激によって一時的に赤みが強く見えることがあります。2026年の小規模パイロット研究でも、洗浄直後に紅斑スコアが一時的に増えましたが、痛みや灼熱感などの有害事象は報告されませんでした。
ただし、この結果を理由にすべての赤みを正常扱いしてはいけません。数時間たっても悪化し続ける、範囲が拡大する、強い痛みや膿を伴う場合は、単純な洗浄刺激ではない可能性があります。
海外植毛を受けた場合の注意
海外で自毛植毛を受けると、帰国後の洗髪指導やトラブル時の連絡方法が国内手術より複雑になることがあります。術後説明書を帰国前に受け取り、洗髪開始日、使用する製品、かさぶた除去の時期、異常時の連絡先を確認しておくことが重要です。
帰国後に感染や出血などが起きた場合、遠隔写真だけでは診断できないことがあります。その場合は国内の皮膚科・形成外科などで対面評価が必要になる可能性があります。海外手術だから危険という意味ではなく、術後フォロー体制を事前に確認することが重要ということです。
術後説明で確認しておく項目
手術前または帰宅前には、最低限「最初に濡らしてよい時刻」「シャンプー開始日」「移植部を指で触れてよい日」「かさぶたを落とし始める日」「帽子・整髪料・運動・入浴の再開目安」「異常時の連絡先」を確認しておくと安心です。
説明が口頭だけの場合は、重要な部分をメモするか、書面・アプリ・メールなどの術後説明があるか確認するとよいでしょう。術後は緊張や疲労で説明内容を忘れやすいため、家族と共有しておく方法もあります。
まとめ
自毛植毛後の洗髪は、早すぎる強い摩擦と、必要以上に長い洗髪回避の両方を避けることがポイントです。術後早期は移植グラフトが物理的に不安定で、とくに付着したかさぶたを無理に剥がすことは避けるべきです。一方、適切な時期から優しく洗い、頭皮を清潔に保ちながらかさぶたを徐々に減らすことも大切です。
具体的な開始日はクリニックごとの術式・術後管理で異なります。手術を受けた施設の説明を最優先にし、強い痛み、広がる赤み、膿、悪臭、発熱、持続する出血などがあれば、洗髪方法を調整するだけで済ませず診察を受けてください。